日時:2026年7月21日(火) 16:00〜18:00
会場:大阪大学理学研究科 J棟2階 南部陽一郎ホール
座長:山口 浩靖 教授
話題提供:
(1)「医理核連携教育研究プロジェクト活動紹介」
FRC分野横断プロジェクト研究部門
樺山 一哉 教授
(2)「マルチオミクス(メタボロミクス、プロテオミクス)プロジェクト活動紹介」
MSC研究推進部門
和泉 自泰 教授
概要:
(1)前半では、樺山先生から「医理核連携教育研究プロジェクト」の活動についてご紹介いただいた。本プロジェクトでは、核物理学、理学、医学などの異分野を結集し、α線放出核種を用いた標的アルファ線治療(Targeted Alpha Therapy:TAT)の研究開発を進めている。はじめに、α線核医学治療のインパクトを示す例として、進行前立腺がんに対する225Ac-PSMA治療の臨床画像が紹介された。多数の転移を有し、従来治療が奏効しにくい症例においても、治療後に病変の著しい減少と腫瘍マーカーPSAの大幅な低下が認められており、α線治療が難治性・転移性がんに対する新たな治療選択肢となる可能性が示された。

図1 進行前立腺がんに対する225Ac-PSMA治療のインパクト
続いて、治療用核種として注目されるアスタチン211(211At)の特徴が説明された。アスタチンは周期表上でヨウ素の下に位置するハロゲン元素であり、211Atは半減期約7.2時間のα線放出核種である。大阪大学では、天然ビスマスを標的としてサイクロトロンで211Atを製造し、その高い細胞傷害力と短い飛程を生かして、がん組織を選択的に攻撃する治療薬の開発を進めている。
さらに大阪大学では、核物理研究センターにおける核種製造、ラジオアイソトープ総合センターにおける分離・精製、理学・医学系研究者による標識薬剤の合成と非臨床評価、医学部附属病院における臨床研究までを、部局横断的に実施できる一気通貫の研究体制が構築されていることが紹介された。今後も分野の垣根を越えた連携を通じて、国産α線核医学治療薬の創出と、それを担う人材育成を推進していく展望が示された。
(2)後半では、和泉先生から「マルチオミクス(メタボロミクス、プロテオミクス)プロジェクト」の活動についてご紹介いただいた。
はじめに、研究背景およびマルチオミクス解析の共通基盤技術について説明があった。代謝物総体およびタンパク質総体を対象とするオーム科学であるメタボロミクスおよびプロテオミクスは、質量分析技術を基盤として発展してきた学問分野である。また、物理化学的性質が多様な代謝物や、タンパク質をトリプシンなどで消化して得られる膨大なペプチドを網羅的かつ定量的に解析するためには、クロマトグラフィーによる分離技術が重要である。そのため、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)は、メタボロミクスおよびプロテオミクス研究に不可欠な分析手法となっている。和泉研究チームでは、生物システムの理解に向け、クロマトグラフィー、タンデム質量分析、サンプル前処理、データ解析などの要素技術を開発するとともに、メタボロミクス、リピドミクス、プロテオミクスの高度化と、それらを統合したマルチオミクス解析システムの構築を進めてきた。
現在、ライフサイエンスを中心とした様々な研究分野へ応用展開し、開発したオミクス計測技術の有効性を実証するとともに、新たな技術開発課題の抽出にも取り組んでいる。例えば、ノンターゲットメタボロミクスで検出される未同定ピークの構造アノテーションでは、MassBank in silicoの開発により構造予測精度の向上を図っている。また、高品質な質量分析オミクスビッグデータを効率的に取得するため、ハイスループットなメタボローム分析法の開発にも成功している。さらに、1細胞レベルでの定量的メタボロミクス・プロテオミクス技術の研究開発も進めており、今後のライフサイエンス分野へのさらなる応用が期待される。
最後に、和泉先生から、大阪大学大学院理学研究科共通施設 質量分析センターの役割についてもご紹介いただいた。質量分析センターは、機器共用部門、研究推進部門、連携協力部門の3部門から構成され、「機器の共用からイノベーション創出へ」を使命として活動している。今後は、学内外の研究者・組織との連携を強化しながら、装置開発、機器共用、応用研究を一体的に推進する拠点として、さらなる発展が期待される。
Q&Aでは、会場参加者から質量分析マルチオミクスの活用法や代謝物構造アノテーションの精度向上などに関する質問が相次ぎ、活発な議論が展開された。
談話会終了後は、3階ミーティングスペースに会場を移して交流会が開催された。FRCとMSCの両組織のメンバーが入り交じって意見を交わし、分野や組織を越えた交流を通じて相互理解を深めるとともに、今後の研究交流のさらなる発展につながる機会となった。
(文責:FRC・MSC合同談話会事務局)

































