大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター

日時: 2024年3月13日(水) 16:00〜18:00
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール
座長:水谷泰久 教授
話題提供:

(1)松本浩典(分野横断プロジェクト研究部門
        宇宙多波長精密観測プロジェクト代表・教授)
(2)髙島義徳(挑戦的個人研究部門
        環境調和型高分子材料研究開発プラットフォーム構築プロジェクト代表・教授)

概要:
(1)前半では、「宇宙多波長精密観測プロジェクト」代表の松本先生から、赤外線観測による重力マイクロレンズ現象を使った系外惑星探査 について、そして2023年9月に打ち上がったX線分光撮像衛星XRISMに関する研究が紹介されました。ここでは、XRISMに関する話題を説明いたします。
 X線で宇宙を観測すると、可視光線で見た宇宙とは全く別の姿が見えます。例えば図1は、おとめ座銀河団の可視光画像 (左) とX線画像(右) を示しています。


図1. おとめざ銀河団の可視光画像 (左) と X線画像 (右)

可視光で見ると単なる銀河の集合ですが、実は銀河団全体は数千万度の高温ガスで満たされているので、X線だと銀河団全体がぼうっと輝いています。X線は一般に高エネルギー現象が発生している場所で発生します。宇宙X線の観測は、宇宙の高エネルギー現象を調べるための重要な手段です。
 日本にとって最新のX線天文衛星XRISMは、小型月着陸実証機(SLIM)と共に、H-IIAロケット47号機(H-IIA・F47)によって、種子島宇宙センターから2023年9月7日に打ち上げられました。大阪大学のX線天文学グループは、XRISMに搭載されたX線CCD (図2) の開発において、中心的な役割を果たしました。


図2. XRISM に搭載された X線CCD

このX線CCDは、満月よりも広い視野を持ち、広範囲の宇宙のX線画像を取得することが主な目的です。XRISMには、X線マイクロカロリメーターという、原子の特性X線の微細構造まで見分けられるような高精度X線分光器も搭載されています。ただ、画像をとることは得意ではないので、X線CCDとX線マイクロカロリメーターはお互いに相補的な役割を果たします。
 XRISMは打ち上げ後、順調に初期立ち上げを行い、2024年1月、ついにファーストライトを公開しました (図3)。この成果に関しては大阪大学理学部からもプレスリリースを行っていますので、そちらもご覧ください。


図3. XRISM 搭載X線CCD で観測した銀河団Abell2319

これからXRISMは、本格的な天体観測のフェーズに入ります。我々は、X線CCDとX線マイクロカロリメーターを組み合わせ、画期的な成果をあげていきたいと考えています。

(2)後半では、「環境調和型高分子材料研究開発プラットフォーム構築プロジェクト」代表の髙島先生から、水に関係した機能性高分子材料が紹介されました。
 多様な水和環境における超分子ヒドロゲルの力学特性及び超分子架橋の振る舞い
 シクロデキストリン(CD)とビオロゲン末端を有するアルキル鎖ゲスト分子の包接錯体を超分子架橋点として持つヒドロゲルを作製し(図4)、含水率を変えながら力学特性及び動的粘弾性を評価しました。
 約30~40重量%の含水率の時、超分子ヒドロゲルは架橋率に関係なく最も強靭でした。含水率が低いと高分子鎖がガラス状に振る舞い、超分子架橋の可逆性が働かないことが示唆されました。含水率が高すぎると、超分子ヒドロゲルは柔らかくなる上に架橋が効果的に応力分散できないため、最終的に超分子ヒドロゲルの靭性は低下したと考えられます。
Supramol. Mater., 2022, 1, 100001.)


図4. 水中でのCDとゲスト分子の包接錯体形成に関する分子動力学シミュレーションと得られた超分子ヒドロゲル

非共有結合形成により促進された異種材料間接着
 ホスト-ゲスト錯体形成とアミド結合形成の相乗効果を利用した異種材料接着を行いました(図5)。CD/COOH修飾ヒドロゲルとアダマンタンアミン修飾ガラス基板を24時間接触させることで、包接錯体形成に基づき接着しました。次いで縮合剤溶液を浸漬させてアミド結合を形成させたところ、接着強度が向上した。比較対象のCOOH修飾ヒドロゲルとNH2修飾基板(包接錯体無し)の場合と比較して、接着強度が3倍向上しました。競争阻害剤で包接錯体を解離させた場合でも、約2倍の接着強度を維持しました。単なる2種の結合の合算に留まらず、ホスト-ゲスト錯体形成がアミド結合形成を促進したことが示されました。
ACS Appl. Polym. Mater., 2021, 3, 2189-2196.)


図5. ホスト-ゲスト錯体形成により促進される効率的な共有結合形成

材料‐水界面の水和構造の最適化
 ポリアクリルアミドを主鎖とし、環状ホスト分子であるCDと相互作用のあるアダマンタンを高分子主鎖に修飾しました(pAAm-βCD-Ad(x,y); 図6)。pAAm-βCD-Ad(x,y)は分子認識を通して架橋され、自己修復性を示しました。pAAm-βCD-Ad(x,y)の力学特性は含水量に依存し、機能性官能基ユニットの含有量に応じて、40 wt%周辺の含水率で破壊エネルギーが最大となりました。pAAm-βCD-Ad(x,y)の破壊エネルギーや材料間の接着には、最適な含水率が存在することが示されました(図6)。
Macromolecules, 2021, 54, 8067-8076.)


図6. pAAm-βCD-Ad(x,y)の化学構造とpAAm-βCD-Ad(x,y)が示す分子接着挙動の推定構造

(文責:FRC談話会事務局)

 

日時: 2024年1月23日(火)16:00〜18:00
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール
座長:村田道雄 教授
話題提供:
(1)梶原康宏(分野横断プロジェクト研究部門
        理研・理学研究科連携先端計測プロジェクト代表・教授)
(2)長峯健太郎(分野横断プロジェクト研究部門
        理論連携研究プロジェクト代表・教授)

概要:
(1)前半では、「理研・理学研究科連携先端計測プロジェクト」代表の梶原先生から、糖鎖の機能解明の研究についてお話しいただいた。

 生体内では様々な構造の糖鎖がタンパク質に結合し、タンパク質の活性、機能を制御している。しかし、その糖質の作用機序は実際のところよくわかっていない。まず最初に、これら糖鎖の構造と機能について説明された。


  図1 糖タンパク質と、それを構成する糖鎖の様々な構造

 次に、本プロジェクトでは、核磁気共鳴装置をはじめとする様々な分析方法を利用し、糖鎖の機能を明らかにする研究を推進していることが紹介された。特にヒト型糖鎖が結合したタンパク質であり、ヒト赤血球を増加させる活性をもつ「エリスロポエチン」をモデルに化学合成を通して糖鎖構造を変え、糖鎖構造と生理活性の関係を調べていると話された。


  図2 3分枝糖鎖を有するエリスロポエチン(EPO)の精密化学合成

エリスロポエチンの場合、糖鎖の枝分かれ度が3つになると、赤血球の増殖活性が向上することが化学合成を通して確認された。これは、その糖鎖の体積が増加し、水との相互作用が変化したことが原因の一つと考えられるとのことである。さらには、糖鎖と水の相互作用を核磁気共鳴法で分析するユニークな方法を見つけたことも紹介された。

 Q&Aではタンパク質の相互作用に対する糖鎖の機能や、水分子の構造と糖鎖構造の関係などについて各分野の研究者と議論が交わされた。

(2)後半では、「理論連携研究(Theoretical Joint Research; TJR)プロジェクト」代表の長峯先生から、これまでのTJRプロジェクトの活動状況と、宇宙物理に関する最近の話題をお話しいただいた。
 まずはTJRが前身の理論科学研究拠点からどのような変遷を経て、立ち上げに至ったのかについて説明があった。「理学部の理論系の風通しをよくして、新しいことが生まれやすいように横串を刺すことを目的とする。理論科学を軸に研究者が集まり、大阪大学から発信される新しい科学の芽を育てていく。阪大に科学のるつぼを造る」というTJRの理念とビジョンの説明があった。その主な活動の一つである「南部コロキウム」が、2013年からこれまでに45回の講演会を重ねてきたことや、R5年度に共催したいくつかの研究会などについて紹介があった。
  TJRのHP: https://www.phys.sci.osaka-u.ac.jp/nambu/tjr/
  南部コロキウムのHP: https://www.phys.sci.osaka-u.ac.jp/nambu/


  図3 TJRプロジェクトの理念と概要

 次に宇宙構造形成の現状と展望についての解説があった。特にダークマターとダークエネルギーに支配された宇宙がどのように進化するのか、これまでの研究と理解が大まかに紹介された。最も有力である冷たい暗黒物質(Cold Dark Matter; CDM)が支配的なモデルだと、図4のように小スケールでClumpinessが目立つ構造ができることがN体シミュレーションを用いて示された。そして、他にもWarm DM, Fuzzy DMなど、様々な質量をもつダークマターが構造形成に及ぼす影響について研究が進んでいることの説明があった。


  図4 ダークマターによって形成される宇宙大規模構造(Uchuu simulation; Ishiyama et al. 2021)

 さらに、このような大規模構造を持つビッグバン膨張宇宙において、どのように銀河や巨大ブラックホールが共に成長してきたのか?という研究が紹介された。特に2021年12月に打ち上げられたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、深宇宙において新しい銀河や巨大ブラックホールを発見し始めていて、理論モデルを上回る発見率によってモデルと観測の間でtensionが生じ始めている現状が紹介された。今後の初期宇宙のさらなる研究が期待されるところである。


  図5 最新の宇宙望遠鏡が取り組んでいる研究テーマの例 

 Q&Aでは、会場の参加者からダークマターの探査方法や、ダークエネルギーの性質などについて多くの質問が出て、活発な議論が行われた。

(文責:FRC談話会事務局)


今後の開催予定

 2024年3月13日(水) 第5回FRC談話会
  時間帯・場所:16-18時・南部陽一郎ホール

フォアフロント研究センター(FRC)では、構成プロジェクトの各メンバーが、オンサイトで研究活動を紹介し合ってお互いを知り、また異分野間も含む議論を通して交流を深め視野を拡げる活動として「FRC談話会」を行なっています。第5回の談話会を下記のように開催しますので、FRCに所属される方、およびご興味を持っていただける方には、ぜひご参加いただきますようお願いいたします。

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第5回 FRC談話会
日時: 2024年3月13日(水)16:00〜18:00
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
    https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/nambu-hall/#access

座長:水谷泰久 教授

話題提供:
(1)松本浩典(分野横断プロジェクト研究部門
        宇宙多波長精密観測プロジェクト代表・教授)
(2)髙島義徳(挑戦的個人研究部門
        環境調和型高分子材料研究開発プラットフォーム構築プロジェクト代表・教授)

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事務局:吉井重雄(大阪大学)
E-mail: yoshii.shigeo.sci “at-sign” osaka-u.ac.jp

日時: 2023年12月13日(水)
   16:00〜18:00(談話会), 18:00〜 (懇親会) 
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
座長:兼田加珠子 教授
話題提供:
(1)深瀬浩一(分野横断プロジェクト研究部門
        医薬健栄研・理学研究科協働免疫制御プロジェクト代表・教授)
(2)兼松泰男(分野横断プロジェクト研究部門
        「光×質量分析」プロジェクト代表・教授)
概要:
(1)前半は、医薬健栄研・理学研究科協働免疫制御プロジェクト代表の深瀬先生から、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所(医薬健栄研)と共同で進めているワクチンとアジュバント開発プロジェクトの研究活動を報告いただいた。

アジュバントとは、ワクチンの効果を高めるために、ワクチンと共に投与される物質で、ワクチン開発の鍵を握る。モノリン酸リピドA (3D-MPL)やCpG DNAなど複数の自然免疫活性化因子がアジュバントとして実用化されている。まず自然免疫の働き、中でも抗体産生などの獲得免疫活性化について紹介された。

3D-MPLはグラクソスミスクライン社で実用化されたリピドA誘導体であり、サルモネラ菌のリポ多糖から誘導されたものである。本研究科におけるリピドA研究の歴史や免疫増強活性発現機構解明への貢献など3D-MPL開発に導く、基礎研究の貢献が紹介された。

医薬健栄研の國澤純博士はAlcaligenes属細菌が小腸粘膜組織のリンパ節であるパイエル板に共生することを見出していたので、Alcaligenes faecalisの細胞膜(外膜)構成成分であるリポ多糖の単離精製・構造研究を行い、リピドAが活性中心であることを合成化合物を用いて示した。合成A. faecalisリピドAが適度な免疫活性化能を有し、粘膜免疫と全身性免疫の両方を効果的に活性化する有望なアジュバントであること、このアジュバントを含む経鼻ワクチンは、マウスモデルで病原体に対して優れた防御効果を有することが紹介された。

以上のように、独自の基礎研究を基盤として、アジュバントやワクチン実用化を見据えた研究が報告された。

(2)後半は、「光×質量分析」プロジェクト代表の兼松先生から、フェムト秒レーザーを用いた質量分析イメージング法の開発について、また関連する近年のノーベル物理学賞・化学賞の対象研究について紹介いただいた。

質量分析の初段となる脱離・イオン化の過程を超短パルスレーザーで行うことで、材料表面から放出された電子による静電的・非熱的なイオンの引き抜きが起き、光強度を抑制すればソフトで空間分解能の高い分析が期待できる、とのことである。

 

開発した装置は下図のように、フェムト秒レーザー光の走査照射システムを飛行時間(TOF)型質量分析装置と組み合わせている。波長800 nm, 周期200 kHz, パルス幅160 fsの超短パルス光をXY2軸のガルバノミラーで制御することで試料表面のイオン化ポイントをスキャンし、質量分析イメージングを可能にしている。

 

次の図はパルス光強度を変化させて得たヨウ化セシウム膜の分析結果である。上段はイオンのTOFスペクトル、中段はTOFスペクトルの内、単一イオン過程(赤)、複数イオン過程の1個目(青)、2個目以降(黄)を色分けして示している。光強度を低く制御することでピーク幅が狭くなり、単一イオン過程が支配的となることがわかる。また、下段は空間分布(縦軸)とTOF(横軸)に対してイオン強度をマッピングした図で、いずれのパルス光強度でもイメージング分析に成功している。

光によるイオン化機構には共鳴/非共鳴の多光子吸収、超閾イオン化などがあるが、フェムト秒レーザではその強い光電場による原子ポテンシャルの変形が電子放出を引き起こしているらしい。

また、光と物質に関わる関連研究として、ノーベル賞の対象研究から フェムト秒分光( 1999年化学賞)、光コム( 2005年物理学賞)、超解像蛍光顕微鏡( 2014年化学賞)、 高強度超短光パルス( 2018年物理学賞)、アト秒レーザー( 2023年物理学賞)、量子ドット( 同化学賞)など、歴史から最先端動向まで詳しく紹介いただいた。

Q&Aでは各分野の視点から表面分子の光イオン化の描像や今後の展開への期待について突っ込んだ議論が行われた。また談話会終了後はJ棟3階のミーティングルームに場所を移して懇親会を行い、参加者の交流と親睦を深めた。

(文責:事務局 吉井)


今後の開催予定

 2024年3月13日(水) 第5回FRC談話会
  時間帯・場所:16-18時・南部陽一郎ホール

フォアフロント研究センターの兼松泰男教授が、2023年度をもって定年退職されます。
最終講義を開催いたしますので、皆様ご多忙のところ誠に恐れ入りますが、万障お繰り合わせの上、ぜひともご出席くださいますよう、心からお願い申し上げます。

【日時】2024年3月11日(月)
【場所】大阪大学 南部陽一郎ホール  

詳細につきましては、こちらをご確認ください。

日時: 2023年11月8日(水)16:00〜18:00
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
座長:兼松泰男 教授
話題提供:
(1)松本卓也(分野横断プロジェクト研究部門
        マテリアル知能による革新的知覚演算システムの構築
        プロジェクト代表・教授)
(2)越智正之(挑戦的個人研究部門
        波動関数理論に基づく高精度な第一原理計算手法の開発
        プロジェクト代表・准教授)
概要:
(1)前半は、マテリアル知能による革新的知覚演算システムの構築プロジェクト代表代表の松本先生から、神経型情報処理を指向した分子ネットワーク構築に向けた研究活動を報告いただいた。
 まず、物質や材料のネットワークに本質的に内在する計算能力を引き出す「マテリアル知能」の考え方が紹介され、人工知能(AI)の普及により問題となってきた計算爆発を回避する方法論の一つとなりうることが示された。

 次に、神経モデルと物理ネットワークとの対応関係に基づき、マテリアル知能研究において物性科学が目指すべき電気特性の特徴が示された。具体例として、d軌道共鳴トンネル、電気伝導性高分子グレイン間のホッピング、フラーレン超薄膜への希薄ドーピング、ポリオキソメタレートのメモリ効果など、様々な化学系を用いた試みが紹介された。

 それらの中で、湿潤ポリアニリン薄膜のイオン伝導を利用した音声認識が示された。6人の話者による英語のゼロからナインまでの音声識別がすでに成功している。

 最後に、このような研究は分野横断的であり、フォアフロント研究センター(FRC)のような組織が適していること、実際に学術振興会の国際交流拠点プログラム https://nanochem.jp/core2core/ において、FRCにおいた本プロジェクトが日本側センターとして認識され採択されたことが報告された。

(2)後半では、「波動関数理論に基づく高精度な第一原理計算手法の開発」プロジェクト代表の越智先生から、固体における高精度な第一原理計算手法の開発を目指す研究活動を報告いただいた。
 まず、物質中で電子がどのような状態をとるか、そしてそれを理論計算からどのようなアプローチで調べるかについて、基礎からの解説があった。固体の電子状態計算(第一原理計算)における、密度汎関数理論(DFT)と波動関数理論(WFT)という2つの理論的枠組みについて、それぞれの長所と短所が示され、特に本プロジェクトで用いるWFTの特徴を詳しく説明いただいた。

 次に、本プロジェクトで用いる理論手法が、どのようなアイディアに基づくものであるか、またその利点は何か、現在までにどのような物理量が計算できているかについて説明いただいた。本手法では特に、二つの電子の避けあいを記述する「ジャストロウ因子」が重要な役割を果たしている。

 現在は、研究に用いる計算コードをオープンソースで公開しつつ、応用に向けた理論開発を進めているとのこと。最先端の研究の現状や、今後の展望についても紹介いただいた。Q&Aでは会場の参加者から、第一原理計算分野における現在の限界・課題や、将来へ向けた発展の可能性などについて、活発な議論が行われた。
(文責:事務局 吉井)


今後の開催予定

 2024年1月23日(火) 第4回FRC談話会
 2024年3月13日(水) 第5回FRC談話会
  時間帯・場所:いずれも16-18時・南部陽一郎ホール

フォアフロント研究センター(FRC)では、構成プロジェクトの各メンバーが、オンサイトで研究活動を紹介し合ってお互いを知り、また異分野間も含む議論を通して交流を深め視野を拡げる活動として「FRC談話会」を行なっています。第4回の談話会を下記のように開催しますので、FRCに所属される方、およびご興味を持っていただける方には、ぜひご参加いただきますようお願いいたします。

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第4回 FRC談話会
日時: 2024年1月23日(火)16:00〜18:00
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
    https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/nambu-hall/#access

座長:村田道雄 教授

話題提供:
(1)梶原康宏(分野横断プロジェクト研究部門
        理研・理学研究科連携先端計測プロジェクト代表・教授)
(2)長峯健太郎(分野横断プロジェクト研究部門
        理論連携研究プロジェクト代表・教授)

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事務局:吉井重雄(大阪大学)
E-mail: yoshii.shigeo.sci “at-sign” osaka-u.ac.jp

フォアフロント研究センター(FRC)では、構成するプロジェクトの各メンバーが、オンサイトで研究活動を紹介し合ってお互いを知り、また異分野間も含む議論を通して交流を深め視野を拡げる活動として「FRC談話会」を行なっております。第3回の談話会を以下のように開催し、また今回は談話会の後にささやかな懇親会を行います。人数把握のため、ご参加いただける方は下記フォームより申し込んでください。FRCに所属される方、およびご興味を持っていただける方には、ぜひご参加いただきますようお願いいたします。

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第3回 FRC談話会
日時: 2023年12月13日(水)
   16:00〜18:00(談話会), 18:00〜 (懇親会) 
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
    https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/nambu-hall/#access 
    懇親会は南部ホール横の交流サロンで行います 
    (懇親会費:教員2,500円, 学生500円)

座長:兼田加珠子 教授

話題提供:
(1)深瀬浩一(分野横断プロジェクト研究部門
        医薬健栄研・理学研究科協働免疫制御
        プロジェクト代表・教授)
(2)兼松泰男(分野横断プロジェクト研究部門
        「光×質量分析」プロジェクト代表・教授)

参加申込フォーム:https://forms.office.com/r/CVxZZjRxxK (学内用)
  12/11迄にお申し込みください(延長しました)。
  学外などフォームが使えない方は事務局までご連絡ください。

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事務局:吉井重雄(大阪大学)
E-mail: yoshii.shigeo.sci “at-sign” osaka-u.ac.jp

フォアフロント研究センター(FRC)では、FRCを構成する18プロジェクトの各メンバーが、オンサイトで研究活動を紹介し合ってお互いを知り、また異分野間も含む議論を通して交流を深め視野を拡げる活動として「FRC談話会」を行なっています。第2回の談話会を下記のように開催しますので、FRCに所属される方、およびご興味を持っていただける方には、ぜひご参加いただきますようお願いいたします。

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第2回 FRC談話会
日時: 2023年11月8日(水)16:00〜18:00
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
    https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/nambu-hall/#access

座長:兼松泰男 教授

話題提供:
(1)松本卓也(分野横断プロジェクト研究部門
        マテリアル知能による革新的知覚演算システムの構築
        プロジェクト代表・教授)
(2)越智正之(挑戦的個人研究部門
        波動関数理論に基づく高精度な第一原理計算手法の開発
        プロジェクト代表・准教授)

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事務局:吉井重雄(大阪大学)
E-mail: yoshii.shigeo.sci “at-sign” osaka-u.ac.jp

日時: 2023年10月3日(火)16:00〜18:00
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
    https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/nambu-hall/#access
座長:梶原康宏(分野横断プロジェクト研究部門 部門長・教授)
話題提供:
(1)豊田岐聡(センター長、フォアフロント研究部門 部門長・教授)
(2)真鍋良幸(挑戦的個人研究部門
        糖鎖ケミカルバイオロジー研究プロジェクト代表・助教)
概要:
(1)前半は、先端質量分析学研究プロジェクト代表の豊田先生から、質量分析装置の開発からその応用展開に向けた活動を報告いただいた。まずは質量分析の基礎から、阪大独自のマルチターン飛行時間型質量分析計(MULTUM)の開発に至る経緯、そのコンセプトと動作原理、装置設計と、実動作に至るまでの苦労を紹介いただいた。独創的な装置開発の背景には、高分解能を得るためにイオンを周回させ飛行距離を稼ぐ着想、その際に収差が蓄積しないよう周回毎にイオンを初期状態に戻すイオン光学系の設計があり、試作当初は3周しか回らなかったイオンを繰り返し回すための様々な工夫があった。

図1. イオンを8の字形に周回させるマルチターン飛行時間型質量分析計(MULTUM)

 周回に成功すると、その質量分解能は当初目標の数千を大幅に上回る35万以上を達成し、小型軽量でかつ高性能、という新たな領域を開拓する質量分析装置が実現できた。

図2. コンパクトでかつ高性能のMULTUMが狙う領域

 プロジェクトでは現在、この特徴を活かして装置を様々な現場に持ち込むオンサイト分析への展開を進めている。一例として土壌から発生するCO2とN2Oの測定に取り組んだ事例紹介があった。従来は手作業でサンプリングしていた土壌ガス測定にMULTUMを持ち込むことで、2週間の24時間連続測定が実現し、降雨とN2O発生の関係や時間変化を明確に捉えることに成功した。今後は医療や食品、宇宙・地球科学など様々な分野への展開を目指すとのこと。将来的に、地球を取り巻く生態圏の原子・分子を網羅的に解析する「ジオミクス」構想についても話していただいた。

図3. 生態圏を網羅的に解析する「ジオミクス」構想

 Q&Aでは、イオン周回実現のポイントや、応用展開のターゲット、それに向けた課題などについて議論があり大いに盛り上がった。

(2)後半は、糖鎖ケミカルバイオロジー研究プロジェクト代表の真鍋先生から、有機合成を基盤として糖鎖機能の解明と制御を目指す研究活動を報告いただいた。まずはこれまでの研究概要を紹介いただいた。糖鎖は2糖3糖といった比較的小さな糖フラグメントでも機能を持つが、“糖鎖”として複雑な構造を持つことで、多点認識や配座制御などの効果により、機能が複雑化する。さらに、これがタンパク質や脂質と複合化することで、より高度な生体機能制御に関わる。真鍋先生は、こういった高次の糖鎖機能に化学的なアプローチで迫ってきた。すなわち、効率的な糖鎖合成法を開発し、それを基盤として非常に巨大な複合糖質中分子を精密に化学合成し、巨大な糖鎖、複合糖質ならではのユニークな機能の解析と制御を進めてきた。

図4. 高次の糖鎖機能に迫る合成化学的アプローチ

 現在、FRCの挑戦的個人研究部門のプロジェクトでは、特に細胞表層における糖鎖の機能解明・制御を目指して研究を進めている。細胞表層にはグリコカリックス(糖衣)と呼ばれる糖の層があり、膜上でのイベントを緻密に制御している。しかし、その分子レベルでの機能解析はほとんど進んでいない。本プロジェクトで、このグリコカリックスを化学的に編集する技術を開発し、将来的に、細胞表層糖鎖を複雑で制御できない“Undruggable”な対象から、化学的に編集・制御可能な“Druggable”な対象に変え、革新的な糖鎖医薬実現の扉を開くというビジョンを紹介していただいた。

図5. 細胞表層糖鎖機能の解明と制御を目指した化学的アプローチ

 Q&Aでは会場の参加者から、糖鎖機能や糖鎖の応用展開などついて、次々質問があり活発な議論が行われた。
(文責:事務局 吉井)


今後の開催予定

 2023年11月8日(水) 第2回FRC談話会
 2023年12月13日(水)第3回FRC談話会
 2024年1月23日(火) 第4回FRC談話会
 2024年3月13日(水) 第5回FRC談話会
  時間帯・場所:いずれも16-18時・南部陽一郎ホール