大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター

分野横断プロジェクト研究部門

細胞表面の分子基盤解明プロジェクト・生体膜の脂質と糖鎖の研究拠点

細胞膜の主成分は脂質・タンパク質・糖鎖。複雑な自己会合体に化学の目を向ける

生体膜は、脂質・タンパク質・糖鎖からなる非常に複雑な分子複合体です。その本体である脂質二重層はリン脂質・糖脂質とステロールなど低分子の自己集合体でです。膜タンパク質と比較して、生体膜の脂質や糖鎖の役割については分かっていないことが多く残されています。本プロジェクトでは、化学と生命科学の融合を進めることで、細胞膜における機能解明を基に生命現象の理解を深化することを目的として、分野横断的研究を進めます。応用面では、細胞表層の組成分析等におけるバイオメディカル分野の学外研究者と連携を図ることによって研究成果の社会還元を目指します。

特色 FEATURE

有機合成化学、糖鎖化学、機器分析を専門とするチームが相互に連携する学際的な研究プロジェクトです。

これまで未解明な脂質や糖鎖のようなやわらかい生体分子の機能構造を明らかにします。

生体分子がどのようにタンパク質と相互作用して生命機能を引き出しているのかを精密に解明します。

新たな創薬への足掛かりとなる可能性を秘めています。

代表者

村田 道雄

研究室HP

MOVIE

紹介動画

成果 RESULTS

研究成果

化学的アプローチによる脂質認識機構の解明

長年使用されてきた抗真菌薬であるアンホテリシンBは、細胞膜上で殺菌性のイオン透過性チャネルを形成します。この薬剤が真菌のステロールであるエルゴステロール(A右)の存在下で水和膜に形成する分子集合体の3次元構造を実験的に明らかにしました。その結果、以前に考えられていたCとは異なり、7つの薬物分子が安定に集合し、Bのようなイオン伝導性チャネルを形成しています。得られた構造に基づいて、エルゴステロールとの複合体形成により薬物の集合体が安定化し、チャネルの凝集が起こり、薬理作用が向上するというメカニズムを提案しました。このチャネル構造の解明によって、本薬物がヒト細胞よりも選択的に真菌類に毒性を示すことが理解できるようになりました。



A: アンフォテイリシンBと真菌膜のエルゴステロール。BとC: 今回明らかにした一階建てのチャネル構造Bは、以前に報告された二階建てCと色々な点で異なっていました。

今後の発展

水和層を含む生体膜四重層における脂質分子の構造・機能相関

生体膜の研究は、近年進歩が著しい膜タンパク質研究と比較して遅れており、膜脂質の局在によってもたらされるドメイン構造(脂質ラフト)の形成機構や役割についてもよくわかっていません。この解決には生体膜を機能的に再現したモデル膜の創出が望まれますが、これまでの単純組成の均質な人工膜では、局所的で短寿命な生体膜特有のドメイン構造を再現することはできませんでした。この問題を解決するためには、脂質組成が異なる生体膜の外葉・内葉の2層の間、それらと水和層との間(右図のように合計四重層になります)の相互作用を正確に知ることが必要です。本プロジェクトでは、外葉・内葉の非対称性やリン脂質・糖脂質の局在化、それぞれの界面での分子間相互作用を再現し、生体膜と比較します。そこに潜む生体膜固有の特徴を抽出し、脂質の分子描像を解明することによって、生体膜を本質的に理解することを目指します。

生体膜では、①~④のような四重層が安定に形成されていますが、これを人工的に再現できていません。まず、モデル生体膜を創出することによって、構造と機能を化学的に理解することが重要であると考えます。