大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター

日時: 2023年10月3日(火)16:00〜18:00
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
    https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/nambu-hall/#access
座長:梶原康宏(分野横断プロジェクト研究部門 部門長・教授)
話題提供:
(1)豊田岐聡(センター長、フォアフロント研究部門 部門長・教授)
(2)真鍋良幸(挑戦的個人研究部門
        糖鎖ケミカルバイオロジー研究プロジェクト代表・助教)
概要:
(1)前半は、先端質量分析学研究プロジェクト代表の豊田先生から、質量分析装置の開発からその応用展開に向けた活動を報告いただいた。まずは質量分析の基礎から、阪大独自のマルチターン飛行時間型質量分析計(MULTUM)の開発に至る経緯、そのコンセプトと動作原理、装置設計と、実動作に至るまでの苦労を紹介いただいた。独創的な装置開発の背景には、高分解能を得るためにイオンを周回させ飛行距離を稼ぐ着想、その際に収差が蓄積しないよう周回毎にイオンを初期状態に戻すイオン光学系の設計があり、試作当初は3周しか回らなかったイオンを繰り返し回すための様々な工夫があった。

図1. イオンを8の字形に周回させるマルチターン飛行時間型質量分析計(MULTUM)

 周回に成功すると、その質量分解能は当初目標の数千を大幅に上回る35万以上を達成し、小型軽量でかつ高性能、という新たな領域を開拓する質量分析装置が実現できた。

図2. コンパクトでかつ高性能のMULTUMが狙う領域

 プロジェクトでは現在、この特徴を活かして装置を様々な現場に持ち込むオンサイト分析への展開を進めている。一例として土壌から発生するCO2とN2Oの測定に取り組んだ事例紹介があった。従来は手作業でサンプリングしていた土壌ガス測定にMULTUMを持ち込むことで、2週間の24時間連続測定が実現し、降雨とN2O発生の関係や時間変化を明確に捉えることに成功した。今後は医療や食品、宇宙・地球科学など様々な分野への展開を目指すとのこと。将来的に、地球を取り巻く生態圏の原子・分子を網羅的に解析する「ジオミクス」構想についても話していただいた。

図3. 生態圏を網羅的に解析する「ジオミクス」構想

 Q&Aでは、イオン周回実現のポイントや、応用展開のターゲット、それに向けた課題などについて議論があり大いに盛り上がった。

(2)後半は、糖鎖ケミカルバイオロジー研究プロジェクト代表の真鍋先生から、有機合成を基盤として糖鎖機能の解明と制御を目指す研究活動を報告いただいた。まずはこれまでの研究概要を紹介いただいた。糖鎖は2糖3糖といった比較的小さな糖フラグメントでも機能を持つが、“糖鎖”として複雑な構造を持つことで、多点認識や配座制御などの効果により、機能が複雑化する。さらに、これがタンパク質や脂質と複合化することで、より高度な生体機能制御に関わる。真鍋先生は、こういった高次の糖鎖機能に化学的なアプローチで迫ってきた。すなわち、効率的な糖鎖合成法を開発し、それを基盤として非常に巨大な複合糖質中分子を精密に化学合成し、巨大な糖鎖、複合糖質ならではのユニークな機能の解析と制御を進めてきた。

図4. 高次の糖鎖機能に迫る合成化学的アプローチ

 現在、FRCの挑戦的個人研究部門のプロジェクトでは、特に細胞表層における糖鎖の機能解明・制御を目指して研究を進めている。細胞表層にはグリコカリックス(糖衣)と呼ばれる糖の層があり、膜上でのイベントを緻密に制御している。しかし、その分子レベルでの機能解析はほとんど進んでいない。本プロジェクトで、このグリコカリックスを化学的に編集する技術を開発し、将来的に、細胞表層糖鎖を複雑で制御できない“Undruggable”な対象から、化学的に編集・制御可能な“Druggable”な対象に変え、革新的な糖鎖医薬実現の扉を開くというビジョンを紹介していただいた。

図5. 細胞表層糖鎖機能の解明と制御を目指した化学的アプローチ

 Q&Aでは会場の参加者から、糖鎖機能や糖鎖の応用展開などついて、次々質問があり活発な議論が行われた。
(文責:事務局 吉井)


今後の開催予定

 2023年11月8日(水) 第2回FRC談話会
 2023年12月13日(水)第3回FRC談話会
 2023年1月23日(火) 第4回FRC談話会
 2023年3月13日(水) 第5回FRC談話会
  時間帯・場所:いずれも16-18時・南部陽一郎ホール