大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター

日時: 2023年12月13日(水)
   16:00〜18:00(談話会), 18:00〜 (懇親会) 
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
座長:兼田加珠子 教授
話題提供:
(1)深瀬浩一(分野横断プロジェクト研究部門
        医薬健栄研・理学研究科協働免疫制御プロジェクト代表・教授)
(2)兼松泰男(分野横断プロジェクト研究部門
        「光×質量分析」プロジェクト代表・教授)
概要:
(1)前半は、医薬健栄研・理学研究科協働免疫制御プロジェクト代表の深瀬先生から、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所(医薬健栄研)と共同で進めているワクチンとアジュバント開発プロジェクトの研究活動を報告いただいた。

アジュバントとは、ワクチンの効果を高めるために、ワクチンと共に投与される物質で、ワクチン開発の鍵を握る。モノリン酸リピドA (3D-MPL)やCpG DNAなど複数の自然免疫活性化因子がアジュバントとして実用化されている。まず自然免疫の働き、中でも抗体産生などの獲得免疫活性化について紹介された。

3D-MPLはグラクソスミスクライン社で実用化されたリピドA誘導体であり、サルモネラ菌のリポ多糖から誘導されたものである。本研究科におけるリピドA研究の歴史や免疫増強活性発現機構解明への貢献など3D-MPL開発に導く、基礎研究の貢献が紹介された。

医薬健栄研の國澤純博士はAlcaligenes属細菌が小腸粘膜組織のリンパ節であるパイエル板に共生することを見出していたので、Alcaligenes faecalisの細胞膜(外膜)構成成分であるリポ多糖の単離精製・構造研究を行い、リピドAが活性中心であることを合成化合物を用いて示した。合成A. faecalisリピドAが適度な免疫活性化能を有し、粘膜免疫と全身性免疫の両方を効果的に活性化する有望なアジュバントであること、このアジュバントを含む経鼻ワクチンは、マウスモデルで病原体に対して優れた防御効果を有することが紹介された。

以上のように、独自の基礎研究を基盤として、アジュバントやワクチン実用化を見据えた研究が報告された。

(2)後半は、「光×質量分析」プロジェクト代表の兼松先生から、フェムト秒レーザーを用いた質量分析イメージング法の開発について、また関連する近年のノーベル物理学賞・化学賞の対象研究について紹介いただいた。

質量分析の初段となる脱離・イオン化の過程を超短パルスレーザーで行うことで、材料表面から放出された電子による静電的・非熱的なイオンの引き抜きが起き、光強度を抑制すればソフトで空間分解能の高い分析が期待できる、とのことである。

 

開発した装置は下図のように、フェムト秒レーザー光の走査照射システムを飛行時間(TOF)型質量分析装置と組み合わせている。波長800 nm, 周期200 kHz, パルス幅160 fsの超短パルス光をXY2軸のガルバノミラーで制御することで試料表面のイオン化ポイントをスキャンし、質量分析イメージングを可能にしている。

 

次の図はパルス光強度を変化させて得たヨウ化セシウム膜の分析結果である。上段はイオンのTOFスペクトル、中段はTOFスペクトルの内、単一イオン過程(赤)、複数イオン過程の1個目(青)、2個目以降(黄)を色分けして示している。光強度を低く制御することでピーク幅が狭くなり、単一イオン過程が支配的となることがわかる。また、下段は空間分布(縦軸)とTOF(横軸)に対してイオン強度をマッピングした図で、いずれのパルス光強度でもイメージング分析に成功している。

光によるイオン化機構には共鳴/非共鳴の多光子吸収、超閾イオン化などがあるが、フェムト秒レーザではその強い光電場による原子ポテンシャルの変形が電子放出を引き起こしているらしい。

また、光と物質に関わる関連研究として、ノーベル賞の対象研究から フェムト秒分光( 1999年化学賞)、光コム( 2005年物理学賞)、超解像蛍光顕微鏡( 2014年化学賞)、 高強度超短光パルス( 2018年物理学賞)、アト秒レーザー( 2023年物理学賞)、量子ドット( 同化学賞)など、歴史から最先端動向まで詳しく紹介いただいた。

Q&Aでは各分野の視点から表面分子の光イオン化の描像や今後の展開への期待について突っ込んだ議論が行われた。また談話会終了後はJ棟3階のミーティングルームに場所を移して懇親会を行い、参加者の交流と親睦を深めた。

(文責:事務局 吉井)


今後の開催予定

 2024年3月13日(水) 第5回FRC談話会
  時間帯・場所:16-18時・南部陽一郎ホール