大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター

日時: 2023年11月8日(水)16:00〜18:00
会場: 大阪大学理学研究科J棟 南部陽一郎ホール(オンサイトのみ)
座長:兼松泰男 教授
話題提供:
(1)松本卓也(分野横断プロジェクト研究部門
        マテリアル知能による革新的知覚演算システムの構築
        プロジェクト代表・教授)
(2)越智正之(挑戦的個人研究部門
        波動関数理論に基づく高精度な第一原理計算手法の開発
        プロジェクト代表・准教授)
概要:
(1)前半は、マテリアル知能による革新的知覚演算システムの構築プロジェクト代表代表の松本先生から、神経型情報処理を指向した分子ネットワーク構築に向けた研究活動を報告いただいた。
 まず、物質や材料のネットワークに本質的に内在する計算能力を引き出す「マテリアル知能」の考え方が紹介され、人工知能(AI)の普及により問題となってきた計算爆発を回避する方法論の一つとなりうることが示された。

 次に、神経モデルと物理ネットワークとの対応関係に基づき、マテリアル知能研究において物性科学が目指すべき電気特性の特徴が示された。具体例として、d軌道共鳴トンネル、電気伝導性高分子グレイン間のホッピング、フラーレン超薄膜への希薄ドーピング、ポリオキソメタレートのメモリ効果など、様々な化学系を用いた試みが紹介された。

 それらの中で、湿潤ポリアニリン薄膜のイオン伝導を利用した音声認識が示された。6人の話者による英語のゼロからナインまでの音声識別がすでに成功している。

 最後に、このような研究は分野横断的であり、フォアフロント研究センター(FRC)のような組織が適していること、実際に学術振興会の国際交流拠点プログラム https://nanochem.jp/core2core/ において、FRCにおいた本プロジェクトが日本側センターとして認識され採択されたことが報告された。

(2)後半では、「波動関数理論に基づく高精度な第一原理計算手法の開発」プロジェクト代表の越智先生から、固体における高精度な第一原理計算手法の開発を目指す研究活動を報告いただいた。
 まず、物質中で電子がどのような状態をとるか、そしてそれを理論計算からどのようなアプローチで調べるかについて、基礎からの解説があった。固体の電子状態計算(第一原理計算)における、密度汎関数理論(DFT)と波動関数理論(WFT)という2つの理論的枠組みについて、それぞれの長所と短所が示され、特に本プロジェクトで用いるWFTの特徴を詳しく説明いただいた。

 次に、本プロジェクトで用いる理論手法が、どのようなアイディアに基づくものであるか、またその利点は何か、現在までにどのような物理量が計算できているかについて説明いただいた。本手法では特に、二つの電子の避けあいを記述する「ジャストロウ因子」が重要な役割を果たしている。

 現在は、研究に用いる計算コードをオープンソースで公開しつつ、応用に向けた理論開発を進めているとのこと。最先端の研究の現状や、今後の展望についても紹介いただいた。Q&Aでは会場の参加者から、第一原理計算分野における現在の限界・課題や、将来へ向けた発展の可能性などについて、活発な議論が行われた。
(文責:事務局 吉井)


今後の開催予定

 2024年1月23日(火) 第4回FRC談話会
 2024年3月13日(水) 第5回FRC談話会
  時間帯・場所:いずれも16-18時・南部陽一郎ホール